「こんなはずじゃなかった」をブライアン・ジョーンズに重ねる

日々、暮らしていて、

「こんなはずじゃなかったのに」

と思うことはありませんか?

「こうしたら、こうなる」なんて、計算通りにはまるでならないって、思ったことはありませんか?

例えば、頑張っていれば必ずしも認められるわけでも成功できるわけでもない。それどころか、

「まさか、こんな展開に!」

と、なることもある。

今は時代の変わり目。余計、先が見えません。

ブライアン・ジョーンズがローリング・ストーンズを結成し、活動をし始めたのも、音楽的に新しいものが出てきた時代の変わり目だったのではないでしょうか。

今回は、そんなブライアン・ジョーンズに重ねて、「こんなはずじゃなかった」を綴ってみたいと思います。

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自分たちの音楽は間違っていない

ブライアンは自分たちのバンド、ローリング・ストーンズを創設しました。

そこには、

  • 本気で音楽をやりたい
  • 自分たちがやりたい音楽をやりたい
  • 自分たちの音楽は間違っていない

だから、バンドを作って演奏すればウケるはずだという確信に近い想いがあったのではないでしょうか。

ブライアンは本気でバンドを売るために奔走しました。

ところが、思ったようには中々売れませんでした。

ここ↓で紹介した、ブライアンの言葉です。

「マディ・ウォーターズのレコードをかけながら俺たち3人でしゃべった時のことを覚えているよ。俺たちのやってる音楽はまちがっていないのに、まともな仕事がないんだったら、ちょっと今やってる音楽のことは忘れたらどうだろうかと考えたんだ。たぶん俺たちは失敗だったんだろうと。結局俺たちはたいしたことをしてなかったんだ、ただ丸1年間、音楽を学んできただけだったんだってね。だからもう限界だろうって考えたよ。もし俺たちが完全に失敗だったとしてもそれでいいじゃないか。少なくとも挑戦はしたんだから」

やっている音楽は間違っていないのに、売れない。

間違っていない音楽をやっていれば売れるはずなのに、なぜかウケない。

頭のいいブライアンは、思ったのではないでしょうか。「音楽が間違っていなくても、正当な評価を受けられるとは限らない」と。

そして、自分たちは失敗だったのだと、悟りかけた。「頑張ったのにダメだった」という自己満足でもいい。やるだけやったのだから、と。

アンドリュー・オールダムの指示通りにしたのに

諦めかけたところに現れた、ビートルズのマネージャー経験もあるアンドリュー・オールダム。

「君たちをスターにしてやる」

実際にアンドリューのいう通りにやってみると、ストーンズはぐんぐん売れ始めます。

アンドリューは当時売れていたビートルズに対抗して、ストーンズを不良のイメージで売りました。

やっている音楽は同じなのに、なぜこんなに売れ始めたのか、ブライアンにもメンバーにもわからなかったのではないでしょうか。

でも結果が出ているので、認めざるを得なかった。

観てくださいよ、このメンバーたちの悪ぶり(笑)
ちょっとわざとらしいほど;

ROLLING STONES Denmark 1965

結果が出ているから、アンドリューの指示に従った。

上記のブログで紹介していますが、一緒に活動していたイアン・スチュアートのことを指示通りにメンバーから外した。

指示通りにしたはずなのに、結果的にはブライアンがスチュを外した悪者みたいに言われることに。

たぶんブライアンは、自分のやり方ではうまくいかなかったから自信を無くしていたのでしょう。そしてバンドを売るためには、アンドリューに従うことが正解だと思えたのでは。

しかし繰り返しますが、指示通りにしたはずなのに、ブライアンがスチュを裏切ったみたいなイメージになってしまいます。

商業路線ってなに?

「ブライアンは最後までアンドリューの商業路線にはなじめなかった」

という証言を見かけます。

音楽にこだわりがあったブライアン。

やりたい音楽とやりたくない音楽、もちろんあったと思います。

例えば「You Better Move On」について、ブライアンのコメント。

「残念なことにバンドはブルーズのスタイルから離れて<You Better Move On>のような曲をやっている」

んー、確かにちょっとブライアン好みとは違うような気がしますね。

The Rolling Stones-You Better Move On (Live 1964)

でも、それ言ったら「I Wanna Be Your Man」は、アイドルソングっぽくて、あれはいいの?と思ってしまいますが、どうなんでしょうか。「I Wanna Be Your Man」はブライアンのスライドギターが光っている曲ですが。

しかし、あらためて考えてみると、商業路線って一体なんでしょうか。

売れる音楽って、狙い通りにできるものなのでしょうか。

音楽以外でも、商売をやっている場合「売れるもの」を意識しますよね。

ブライアンだって、決して「売れない音楽」をやりたかったわけではないでしょう。

いや、むしろ、売れなかったからアンドリューの戦略にのったわけで、売れたかったのではないでしょうか。

なので、「商業路線=売れる」とするなら、ブライアンが商業路線にはなじめなかったというのは、ちょっと違うような。売れたかったはずなので。

だから「ブライアンが商業路線にはなじめなかった」という意味は純粋に、ストーンズがやる音楽がやりたい音楽とは違ってきたからということだったのではないでしょうか。

アーティストなら誰しも、表現したいことがあり、そこからズレたことをやることに関して「それは違うのでは?」と意見を言うことはすると思うので。

再びビルの著書より。

彼(ブライアン)はアンドリュー・オールダムのとっている音楽路線を非常に嫌っていた。おれたちには知る由もない理由があったからこそ、なされるままに自らのリーダーシップを放棄してしまったのではないか。彼は、やろうと思えば力を振るえる立場にいたのだ。

~中略~

作曲活動を展開するのも可能だったろうに、彼は自信に欠けていた。インタビューを受ければ、彼はローリング・ストーンズのうちでもっとも明確な意見を持ち、思慮深かった。

身体が丈夫なふたり(ミックとキース)が向かってきたとき、彼は持ち場を守る代わりに引っ込んでしまった。おれたちのスケジュールはきつかった。ついていくには、ブライアンはスタミナ不足だった。

アンドリュー・オールダムの音楽路線が商業路線だったからというより、純粋に、自分たちがやりたい音楽ではないと、ブライアンは感じていたのではないでしょうか。

だから意見を主張してみたけれど、通らなかった。

確かに体力のなさは、ブライアンが抱えていた大きな悩みだったと思います。

しかし、アンドリューに従った大きな理由は、「全力投球した自分のやり方では成功しなかったから」ではないでしょうか。ブライアンだって「売れなくても、やりたい音楽をやっていればいい」などとは思っていなかったはずだと想像します。売れなくて苦悩してきたのですから。

自分だけが見せしめに?

裁判を終えたブライアン

アンドリューの戦略に従い、不良のイメージで売れたストーンズ。

しかしそのイメージのせいか、ドラッグ問題で、ブライアンはハメられてしまいます。

そして見せしめのように罰を受けることに。

当時、ほかのミュージシャンだって、ドラッグ、やっていたと思います。

むしろ元々、体が弱かったブライアンは自分の体調には敏感だったはず。ヘビードラッグはやっていなかったという証言があります。医者から処方されている薬だけでも、たくさんあったのでしょうから。

本気で音楽をやりたかったから、そのためには売れないとダメだったから、アンドリューの戦略にのった。

結果的に不良のイメージのせいで見せしめのように逮捕されてしまう。

釈放されたブライアンは、手が付けられないほど荒れていたといいます。

……責められません。1度逮捕されてから、ブライアンはドラッグを遠ざけていたはずで、2度目の逮捕は明らかにでっち上げだと思われるので。

尽くしたはずが外された

ストーンズがやっていた音楽は、ブライアンがやりたかった音楽ではなかったのかもしれません。

でもブライアンは、ブライアンなりにバンドに貢献していました。

さまざまな楽器を操り、バンドの音を彩っていくこと。

曲作りに貢献して、クレジットに自分の名前が出なくても、問題にもしませんでした。

「ブライアンはバンドの足手まといだった」

という証言がある一方で、

「ミックやキースがブライアンを”お荷物”に感じていた時期はまったくといっていいほどなかった」

という意見もあります。

ブライアンはブライアンなりにバンドに貢献してきたはずだった。

なのに、外された。

自分の状態や、周りの状況を考えると仕方なかったこととはいえ、自分が創ったバンドをクビになる。

頑張ったけど、ダメだった。

体調を整えることを優先させたはずなのに

とはいえ、ストーンズから離れ、ブライアンは開放された気持ちにもなっていたと思います。

不安と開放感。

これからは自分がやりたい音楽だけをやっていく。というより、やっていくしかない。

そのためには、まず体調を整えなくてはと思ったのではないでしょうか。

心穏やかに過ごせるよう、子供の頃から好きだったくまのプーさんの作者の屋敷を買い取った。

夢の世界で過ごしながら、疲れ切ってしまった心のケアをする。

得意だった水泳をして、不規則な生活で損ねてしまった健康を取り戻す。

焦らず、まずは体調管理。

……しかし、そのプールが、ブライアンの命を奪うことになってしまいました。

ブライアン・ジョーンズにとって真実の満足

1960年代、音楽の世界も、世間の価値観も変わっていった時期。

さまざまなことに遭遇しながら、ブライアンは選択に迫られ、その都度、ベストな選択をしてきたはずです。

しかし、計算していたかどうかはわかりませんが、「まさかこんな展開になるとは」「こんなはずじゃなかった」と思うことはあったような気がします。

※まとめ※

★自分のやり方で売れなかったので、アンドリューの戦略にのることを選択

  • スチュをクビにした責任を負うことになる
  • やりたい音楽路線から外れる
  • リーダーから外される
  • 不良のイメージで売ったことで、見せしめのように逮捕される
  • 身体も心もボロボロになり、演奏もままならないようになる

★ストーンズをクビになり、まず健康を取り戻すことを選択する

水泳をするための屋敷のプールで亡くなることになる

……自業自得だったのでしょうか?

私は、「ブライアンの人生は自業自得だった」で片付けたくはないです。ブライアンは精一杯生きたと思うから。

そもそも「自業自得」で片付けられるほど、人生は簡単なものではないと思っています。

計算通りに生きられるなら、みんな、もっと楽に生きられる。思いがけない展開や、訳がわからない感情が渦巻いているから、思った通りにはいかない。

時代にもみくちゃにされ、若くして亡くなってしまった。

仲間はずれにされ、功績も認められず切られ、ブライアンはかわいそうだった? 魂というものが存在するのなら、今でもブライアンの魂は悲しんでいる? そうでしょうか?

妄想になってしまいますが、もしもブライアンの魂が今も存在しているとしたら、ブライアンは今でもストーンズが活躍していることを誇らしく思っているように感じています。

↑ここでも書きましたが、少しも恨んだりしていない。「こいつら、すごいだろ!」って、めちゃくちゃ喜んでいる。

そして今でもメンバーの心の中にはブライアンが生きていると思います。

妄想で締めるのは申し訳ないですが、ブライアンはめちゃくちゃはしゃいでいる、喜んでいる、ストーンズの活躍に大満足しているのではないでしょうか。

だって、世界にひとつだけの奇蹟的なバンドですもん。ほかに、こんなに長く活動を続けている魅力的なバンドないですもん。

「こいつら、すごいだろ!」ってブライアンに言われたら、迷わず返したいです。「うんうん、すごいね。みんな、すごいね。あなたの仲間は最高だね、ブライアン」って。