検死官アンガス・ソマーヴィルはブライアンの死因を「アルコールと薬物摂取による脂肪変性に起因する肝不全に関連する溺死」と判断した。
ブライアンの死因について、「ミック・ジャガーの真実」(クリストファー・アンダーセン著)では他殺としている。
当日はパーティーが開かれていて、ブライアンは家の改装のために雇われていた作業員たちに殺されたのだ、という。
夜の11時頃、ブライアンの友人のニコラス・フィッツジェラルドとリチャード・キャドバリーが屋敷に行ったとき、3人の男と一人の女がプールサイドに立ち、4人目の男がブライアンを水の中に押さえ込んでいた。
そこに眼鏡をかけたたくましい男(この外見的特徴はトム・キーロック?)が進み出てきて、フィッツジェラルドたちを殴り、脅した。
怖気づいた彼らはその場から逃げた。作業員たちも逃げた。
警察が到着したとき、誰もパーティーのことを話さなかった。
「ミック・ジャガー」(アンソニー・スカデュト著)では、また違う書かれ方をしています。
アルコールを飲み、鎮静剤を服用していたブライアンは真夜中に近い頃、泳ぐためにプールに向かった。
看護婦のジャネット・ローソンは泳ぐことをとめたが、ブライアンは無視した。
建築業者のフランク・サログッドはブライアンを見張るためにラウンジ・チェアに体を伸ばしていたが、ブライアンがスイスイと泳いでいるのを見て、タバコを取りに家の中に戻った。
彼がブライアンから目を離したのは、ほんの数分だったが、プールに戻ってみるとブライアンは身動きひとつせず、プールの底に沈んでいた。
……真相は闇の中ですね。
個人的には、自殺はないだろうと思っていて、また上記のような他殺だったとしたらあまりにもひどいので、事故だったと思いたい、です。
去年(2006年)の映画ではフランクが犯人ということになっていましたが、その理由のひとつとして、当時の恋人アンナ・ウォーリンが「その時、プールには、ブライアンとフランクしかいなかったから」と言っています。
ここに疑問を挟む余地があるならば、家の中にいて、その場を見ていなかったアンナが、なんで「そこには2人しかいなかった」と言い切れるの?ということです。
あくまでも仮定ですが、もしかしたらブライアンとフランクがいたとき、もしくはフランクが家の中に戻ったわずかな間に、第三の人物が現れていたかもしれないではないですか。
フランクがいるときに第三の人物が現れたとして、その人物がブライアンと二人で話がしたい雰囲気だったとしたら、フランクは気を利かせてその場を離れたかもしれないです。
そして、フランクが戻ってみたら、ブライアンは沈んでいた……
何故、フランクが第三の人物について証言しなかったのかというと、「言えない」事情がそこにあったからでしょう。
それが公になったら、大変な騒ぎになってしまうような人物だった、とか。
もしその通りだとしたら、フランクは口止め料をたくさんもらったでしょうね。
これは、あくまでも、もしかしたら、の”仮定”の話です。
だって、いろいろな証言を合わせて考えてみても、屋敷の敷地内には誰でも入り込めるような感じなのに、「プールにいたのはブライアンとフランクだけ」で、その時、ブライアンが亡くなってしまったから「犯人はフランク」と決め付けるのはどうなの?って思うのです。
しつこいですが、あくまでも”仮定”です。真実はわからない。フランクも、もう亡くなっているし。(その死の床でブライアン殺害を告白したとされていますが)
フランクが関わっていたにしろいないにしろ、とにかく彼は”真実”を知っていたでしょうね。
でも例えそこに誰かがいたのだとしても、私はやはり事故であったと思いたいです。
※「ミック・ジャガーの真実」(クリストファー・アンダーセン著)より、引用※
七月三日の午前二時、ミックが電話を取ったとき、彼はキース、チャーリー・ワッツと一緒にオリンピック・スタジオで《レット・イット・ブリード》のミックス・ダウンをしていた。ブライアンの助手トム・キーロックの妻がミックにブライアンが溺れたことを話した。
そのニュースを聞いたすぐ後にキース・オルサムがスタジオに入ってきた。「そのときぼくはまだそのニュースを知らなかった」とオルサムは回想している。「しかし部屋に入っていくと、みんな沈んで、死人のように真っ青になっていた。あたりはシーンとしていた。ミックがコントロール・ボードの前にすわって、悲しみにうちひしがれているように見えた。泣いてはいなかったが、今にも泣きそうな顔をしてたよ」
オルサムはミックに何が起こったのかたずねた。
「ブライアン」と彼は答えた。
「死んだのか?」
「ああ」
オルサムはミックたちに今晩はもう止めるかどうかたずねた。「いや!」ミックはコントロール・パネルに注意を戻し、「続ける」と言った。
ブライアン・ジョーンズの死の翌朝、ミックはほかのメンバーとマドックス・ストリートの事務所で合流した。ブライアンに会ったことがなかったミック・テイラーは、ただひとり沈黙を守るしかなかった。チャーリー・ワッツの顔には涙の跡があった。
ミックは神経質に事務所の中を歩きまわっていた。ブライアンの死がストーンズの運命にどんな影を投げかけるのか思案していたのだ。その日発売される両A面のシングル<ホンキー・トンク・ウィメン/無常の世界>の宣伝に効果があることは明らかだった。
シングルのプロモーションのためにストーンズは七月三日の午後のテレビ番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』に出演することになっていた。それは大切な番組だった。ミックはキャンセルする理由はないと考えていた。個人的理由からもハイド・パークのコンサートも強行するつもりでいた。もしミックがオーストラリアの『太陽の果てに青春を』の撮影現場に入るのが七月九日以降になったら、プロデューサーは告訴するだろう。ミックがオーストラリア入りにまにあうには、コンサートはスケジュールどおり行う必要があった。
ブライアンの死の2日後にハイド・パークのコンサートを強行する理由として、チャーリーの「ブライアンの追悼コンサートにしよう」というアイディアが起用された。
ミックは報道関係に、
「おれたちはコンサートをやる。ブライアンのために。おれたちは考え抜いた。そして、ブライアンがそれを望んでいると感じたんだ」
と発表した。
その晩、ミックとマリアンヌはプリンス・ルパート・ローウェンスタインが開いた「ホワイト・パーティー」に現れた。
全員が白い服を着てくるように、というパーティーだったが、マリアンヌだけは黒服を着て、ブロンドの髪の毛をバッサリ切り、ブライアンに弔意を示していた。
ミックは前衛デザイナー、マイケル・フィッシュのデザインした白いパーティードレスを着ていた。
帰る前に、マリアンヌはミックがトイレで鼻をすすっているのを耳にした。出てきたミックの目は赤く潤んでいて、囁き以上の声を出すことができなくなっていた。
マリアンヌは、ミックにもついにブライアンの死の悲しみがのしかかってきたのだ、と思ったが、それは単なる花粉症だった。
七月五日、土曜日の暑い朝、ハイド・パークには何万人もの群衆が集まってきた。
ミックとの付き合いが続いていたマーシャ・ハントはステージ左手にそびえる高さ30フィートの足場の上の止まり木に案内された。ミックは演奏中、彼女の姿が見えることを望んでいた。
ミックの威勢のいいパフォーマンスにも関わらず、バンドの演奏にはむらがあり、ほとんどアマチュアじみていた。後年、このコンサートは最低だったとみなされるようになる。
ストーンズ・ファン・クラブのオルガナイザー、ヴァレリー・ワトソン・ダンは回想する。
「私はミックがブライアンの死にあまり影響を受けてないようなのでびっくりしたわ。何ごともなかったみたいで、冷血漢みたいに思えたわ。以来彼に対する考え方が変わったの。多くのストーンズ・ファンもそうだったと思うわ」
確かにこの時の様子を読むと、ミックはブライアンの死をそれほど悲しんでもいない、冷たい人間のように思えます。
ミックは、ブライアンの死を、本当になんとも思わなかったのでしょうか。
――ここまでミックのことを書いてきた私には、そうは思えません。
ミックは、すごくショックだったと思います。
ストーンズを維持していくために、ブライアンを切った。
もしもブライアンがメンバーのままだったら、7月2日の夜には、他のメンバーとスタジオにいたかもしれない、プールにいることはなかったかもしれない。
もしもブライアンをメンバーからはずしさえしなければ、ブライアンは生きていたかもしれない……、少なからずミックは自分の責任を感じたかもしれません。
でも、感情に流されないミックは思ったのでしょう。「ストーンズを潰さないためには、ブライアンを切る必要があった。ブライアンを犠牲にしてまで維持したかったストーンズの活動を、何が何でもやめてはいけない。ここでやめたら、ブライアンの死すら、意味のないものになってしまう」
ミックにとって、ストーンズを続けることこそ、ブライアンへの弔意だったのではないでしょうか。
先日も引用した「rockin’ on」のインタビューで、ミックは、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を”俺の高揚剤ソング”と言い、
「例えば、自分がメチャ落ち込んでるような時でもこの歌を口ずさんでみさえすれば即、世界の頂上に立ってるような気分になれる、っていうかさ。曲調、歌詞ともに俺の士気を高め、俺を鼓舞してくれる作用を持ってるみたいなんだ」
と語っています。
そして、
「この曲を聴く人間にとっても『この俺様にとっては全てがガスみたいなもの。この俺様にできないことなんか世界中にありゃしないんだ!』って気分になってもらうことこそがこの曲の利用価値でもあるわけだよ」
とも語っています。
ミックはこの時、少しも悲しんでいるようには見えなかったかもしれない。だけどそれは、ミック自身が敢えて、そう振舞っていたからではないでしょうか。
ここで泣き顔なんて見せられるもんか! 「ブライアンの死を悲しみもせず、それすらも利用しようとしている、冷血漢」、進み続けるためにそんなイメージが必要なら、それでいいさ!、と。
もしかしたら、ミックの中では「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」が鳴り響き、折れそうになる自分を「俺様にできないことは何もないんだ!」と、必死に奮い立たせていたのかもしれません。
ブライアンの死後のメンバーのコメントです。
キース「ブライアンが死んだ日……、とても奇妙なことが起きた……大勢の人間が、突然消えていなくなったんだ。俺たちはその夜セッションをやっていたが、むろんブライアンがやってくるとは思っていなかった。彼はもうバンドをぬけていたからな。すると真夜中にだれかが電話をかけてきて、『ブライアンが死んだ』と、言った。そんなばかな、と思ったが、ひょっとすると俺たちの運転手のだれかが彼を殺したのかもしれないと疑って、真相を調べようとした……彼らのなかにはブライアンを脅迫していた奴がいたんだ。その晩はパーティーが開かれて、女の子も大勢集まっているはずだった。だがどうもよくわからないんだ。あの夜ブライアンになにが起こったのか俺にはわからない。彼を殺したがっている奴などあそこにはいなかった。きっとだれかが彼の面倒を見なかったんだ。彼の面倒を見ることになっていた人はかならずいたはずだよ。特に、ブライアンはパーティーなるとひどく荒れるからな。だれもがそのことを知っていた。おそらく、彼はひと泳ぎしようと水に入ったんだろう。そしてぜんそくの発作をおこした……俺たちはほんとにショックを受けたよ。俺は現場に直行して、だれがパーティーに来ていたか知ろうとしたが、不思議なことにだれもいなかった。やっとひとりだけつかまえたが、俺の考えでは、そいつが全員を退去させ、警察が来ても事故だと思わせるように仕組んだんだろう。きっとそうさ。奴は名前が公表されるのを恐れて、みんなを追い返したんだ。それでよかったのかもしれないが、俺にはよくわからない。その夜だれがそこにいたのかもわからないし、見つけ出すのも不可能だ……ケネディが殺されたときと同じ心境だよ。真相はまるでわからないんだ」
ミック「うん、ブライアンが死んだときはショックだった。だけど、やっぱりブライアンは死んでしまったか、という気持ちもあったと思う。だれもが、ブライアンはもう長くないだろうと感じていたからね。彼は人生を早く生きすぎたんだ。まるで蝶のような奴だった……そうさ、俺とブライアンは、一時とても親しかった。ところが、ふたりは不仲を伝えられるようになって……俺には、ブライアンがどんな歌を書きたいのかまったくわからなかった。彼は思っていることをあまり口に出さなかったからな。書いた歌を俺に聞かせてくれることもなかったから、彼がほんとにやりたいことを知るのはとても難しかったんだ。歌を書いたにしても――彼はいくつか歌を書いたと思う――とても内気だったから、『この歌はこんな風に始まるんだ……』という風に俺たちに見せることができなかったんだろう。それに、彼は見せる気もなかったらしいから、それでだんだん息苦しくなってきたんだろう」
チャーリー「数年前はこんなじゃなかった。ブライアンに活気があった頃は、家族みたいに結束がかたかった。でもぼくは、最近になって時々思うんだ。ぼくはほかのメンバーのことをよく知らないんじゃないかって」
キースは、あの晩は「パーティーが開かれていた」と言ってますね……
パーティーが開かれていたのが本当なら、当時の恋人だったアンナが嘘をついていることになってしまいます。
更にキースは1994年の「rockin’ on」のインタビューで、インタビュアーの、
――これは非常に聞きにくいことなんですが、最近の英メディアではブライアン・ジョーンズが他殺だった、なんていうニュースも流れてたんですけど、あの件については正直言ってどういう気分でした?
という質問に、
「うーん……俺はブライアンって人間をよく知ってるから、ありそうな話だとは思ったよ。当時の奴っていうのはまさに狂気の淵までいってたからさ。それに胡散臭い取り巻き連中ばかり自分のそばに置いてたし、クスリでベロンベロンになった奴を誰かがふざけてプールに突き落としたとしても別に全然不思議な事じゃないよ。もともとブライアンって男は自分に対しても他人に対しても徹底して破壊的な人間でね。遅かれ早かれあれに近い最期を迎えるんじゃないか?と危惧してたんだ」
と答えています。
キースは本当にブライアンのことを”よく知っていた”のでしょうか。
「ぼくはほかのメンバーのことをよく知らないんじゃないか」と言っているチャーリーとは、対照的です。
それにしてもキースは、他殺説を「ありそうな話」と肯定してしまうのですね。
ミックのコメントは……、少し奇妙な感じがします。
ブライアンが言っていたことと、食い違っていますよね。
ブライアンは、自分が曲作りに参加できる余地がなかったと言っている、ミックは、ブライアンが内気だったゆえに自分の曲を他のメンバーに聴かせられなかったと言っている……
つまり、お互いが相手のせいにしているわけです。
たぶんどちらも少し本当で、少し嘘、なのでしょうね。
なんの気なしにとった行動や放った言葉が、自分が思ってもなかったふうに相手にとられてしまうことってありますから。
ブライアンは自分の曲も聴いてほしかった、でも聴いてもらえる雰囲気ではなかったと感じていて、ミックは、そんなブライアンの奥ゆかしさ(?)を、「彼は内気で、自分の曲を聴かせようともしなかった」というふうに受け止めていたのかも。
でもブライアンが”蝶のような奴だった”という言葉は印象的です。
だからミックは、ハイド・パークでのコンサートで”蝶を放つ”という演出をしたのかな。
さて、ブライアンが亡くなってしまったところまできてしまいましたが、このブログはブライアンのことを知るためにミックのことを知ろうと思い、また彼らの間の確執の本質について考えたいと思って書いてきたので、まだ続きます。
でも、ようやく”締め”が見えてきました。