ブライアンとミック・ジャガー part9

落ち込むようなことではないことで落ち込んでメソメソしていたら、ちょうどその時聴いていた「ジャジューカ」のCDが妙な音になり、そして止まりました。

プレーヤーの「PLAY」ボタンを押しても反応せず、
「CD聴きすぎて、盤が傷んだ?」
と思いながら、いろいろ操作していたら元通りに聴けるようになりました。

”たまたま”プレーヤーの調子が悪くなったのかもしれませんが、タイミング的に、
「マイナス思考になるな! メソメソするな!」
と(ブライアンに)励まされたような気がしました。

……以上、私の幸せな(おめでたい?)思い込みでした。

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part8の続きです。

ブライアンがストーンズを脱退したときのコメントです。
(ブライアンの解雇は、彼が自分からやめていったのだという公式発表にすりかえられた)

ブライアン「もはや新譜についてちゃんと話すこともなかった。ストーンズの音楽はもうおれの趣味に合わなくなった。唯一の解決策は別の道を行くことさ。でもおれたちが友人であることは変わらない。あいつらのことは好きだよ」

ミック「ブライアンの様子がおかしいって数ヶ月前から気づいていた。ちっとも楽しそうじゃなかったし、ステージにもそれを持ち込むから、おれたちはじっくり顔をつき合わせて話し合わなければならなかった。それで、おれたちは彼にとっていちばんいいのはグループを離れることだって決断したんだ」

家に帰るとミックはブライアン・ジョーンズが彼に次いで人気のあるメンバーだという事実に直面しなければならなかった。ブライアンの離脱を目立たせずに、ミック・テイラーを世界に紹介する最善の方法は忘れられないような壮大なショーを行うのが一番だとミックは考えた。

ミックはマリアンヌと共にハイド・パークで行われたブラインド・フェイス(スティーヴ・ウィンウッドとエリック・クラプトン、ジンジャー・ベイカーが結成した新グループ)のフリー・コンサートに気圧されて、ストーンズもハイド・パークでフリー・コンサートを開くべきだと決めた。

またミックは「ホンキー・トンク・ウィメン」のモデルとしてブリティッシュ・テレビジョンの「トップ・オブ・ザ・ポップス」の生放送中で見たマーシャ・ハント(精神科医の娘である黒人女性)を使うべきだと確信した。

いい返事をしないマーシャをなんとか説得しようと、ミックは深夜、マーシャのアパートを訪れた。

ミックはマーシャ・ハントにマリアンヌがドラッグに溺れていることや、流産のこと、ふたりの関係が悪化していることなどを打ち明けた。さらに、バンドを守るためにブライアン・ジョーンズを無理やりクビにしたことも話した。彼女にとってもっとも印象的だったのは、恥ずかしげもなく、彼が孤独だと告白したことだった。ふたりはお茶を飲みながら語り合い、そして翌朝七時まで愛し合った。

2人はその後、マリアンヌの目を盗んで付き合いを続ける。

ミックが彼女を気に入っていた理由のひとつに、ドラッグをやらないことがあった。

この頃、マリアンヌはアニタの破壊的影響下にあり、ヘロインを1日に4度もやっていた。

ブライアン抜きの今後のために、ストーンズの財政を調べたミックは、大きなショックを受けた。ミックの推定では、アレン・クラインがマネージャーになって以来の二年半で少なくとも千七百ドルの粗利益をあげている。しかし十年にわたって音楽業界でビートルズに次ぐ地位を占めてきたにもかかわらず、どうしたわけか財布はすっからかんだった。

一方、ストーンズを脱退してからのブライアンの状態です。

ここでは「ミック・ジャガー」(アンソニー・スカデュト著、晶文社)を参考にします。

ミックから連絡をもらったアレクシス・コーナーはブライアンに電話をした。

ブライアンは喜び、そして何年も連絡をしなかったことを謝った。

アレクシスはコッチフォードにブライアンを訪ねた。

庭園を散歩した後、ブライアンはストーンズでどんなにひどい傷つき方をしたかを話した。

ジャガーとキースによって、自分はグループから意識的に疎外されたのだ、とブライアンは言った。そして自分は、ジャガーの独断によってスタジオに呼ばれ、大筋のトラックがすでに録音されてしまったあとでほんのすこしだけ吹き込みをやらせてもらうまでは、レコーディング・セッションのことはなにも知らされなかった、と。ジャガーとキースは、自分を追い出そうとしてグループ内の孤立化をはかり、もうストーンズのメンバーではないと自分に思わせ、やがてときがきて法律上の複雑な手続きがすめば自分を放り出すつもりなのだ、とブライアンは感じていた。アレクシスに語りかける彼はとても苛立っていて、ジャガーに話がおよぶと、ひどく憎々しげな表情を見せた。しかしアレクシスは、ブライアンの悪態にも驚かなかった。「ブライアンはいつも、ひどく憎々しげでしたね。自分が正しいと思いこんでいることを言うときには、常に誇張した喋りかたをしていましたよ」
「いちばん傷つけられたのは」と、ブライアンは話していた。「ブライアン・ジョーンズの手になる曲が、一度としてローリング・ストーンズのヒットにならなかったことだよ。いまさらそれをとやかく言いたくはないが、いつだって、ジャガー/リチャーズの曲がヒットになった。いつもジャガー/リチャーズなんだ。ぼくの曲はどうしたのかというと、一度だって使ってもらえなかったのさ。彼らは印税を自分たちで独占したかったんだ。自分たちだけが曲をかくことができるなんて思いあがっていたんだよ。ぼくがわりこんでいく余地なんてなかった。ぼくがやりたいと思ったことをやるチャンスなど――一度も――めぐってこなかった。ぼくの音楽なんてどうでもいいのさ。ストーンズに嫌気がさしたのはそういうわけで、それがいまのストーンズだよ」

更にブライアンは、自分は囚人のように監視されている、奇妙なお抱え運転手みたいな人たちが家具などを盗んでいく、建築業者は法外な値段をふっかける、と話し続けた。

ブライアンは彼のためにマリファナタバコを巻いているアレクシスを止めた。

「もうドラッグはやめて、また大酒を飲み始めたんだ」と。

アレクシスの記憶によれば、ブライアンが一番ドラッグを服用していたのは「サタニック・マジェスティーズ」の制作にかかわっているときだったという。

ドラッグを服用していたブライアンはまん丸いゼリーのかたまりみたいで、よたよたしながら意味もなくふぬけた笑いを浮かべていた。

その頃のブライアンに比べたら、今はブライアンはよほど健康を取り戻していた。

ブライアンが幻覚剤をけなし、アルコールを賞賛するのを聞きながら、アレクシスはまた別のことを感じ取っていた。アルコールは合法的かつ男らしいドラッグだから、ブライアンは再びアルコール党になることによって、ジャガーがもっともキャンピーだとされ、男女の区別がときとして曖昧になり、ホモセクシュアリティが受け入れられて奨励されるアンドロギヌス的ポップ・ミュージック・シーンから足を洗おうとしているのだ、とアレクシスは思った。ブライアンはいま、別のイメージを捜していた。昔のように酒をのみ、女性にはまるで目がなく、ポップ界には存在しないまぎれもない男らしさを取り戻そうとしていたのだった。そうした過去の自分に対する思い入れは、もとはと言えば彼をいまとはちがうストーンズに送り込んだ、あのハードなブラック・ブルースに回帰したかったからなのだ。しかし、そのハードなブラック・ブルースも、ジャガーが自分自身のためにおかまいなくつくりあげたバイセクシュアル・イメージのなかで、とっくに捨てられていた。もしブライアンがもう一度そこで音楽をやろうとするならば、まったくパーソナリティをつくりなおさなければいけないはずだということが、アレクシスにはよくわかっていた。

翌週も、さらにその次の週も、二人は電話で話し合った。

最初はブライアンは憎悪とパラノイアに満ちた話しかしなかった。

ブライアンはミックが統率している雇用者たちが故意にブライアンを崖っぷちに追いたてようとしている、オフィスが彼の行動を監視している、と思い込んでいた。

アレクシスは、その点は信じられなかったが、ブライアンの家で搾取が行われているということは信じられると思っていた。

2、3週間の間、ブライアンはアレクシスを相手に話し続けた。

自分の人生哲学は中東に行ってからすっかり変わった、などとモロッコのことについては話したが、アニタとのことについては話さなかった。

ただ一度だけ「もうアニタには興味がない」と言っただけだった。

――この頃、既にアニタはキースの子供を身ごもっていたはず。

よく言われるように、ブライアンは最期まで、アニタを思っていたのでしょうか?

アニタと一緒だったら、ブライアンはこの時期もドラッグから足を洗うことができなかったと思うのですが。

……これは、ブライアンに聞かなければ、わからないですね。

3週目、4週目には、ブライアンはこれからの音楽の計画について話しはじめた。

二人は真剣にそれについて考え、ブライアンの気持ちは相当落ち着いてきた。

ストーンズに在籍していた初めのころに抱いていた、ミュージシャンとして成功したいという衝動を再度露わにし始めた。

ブライアンはちょうど結成したばかりだったアレクシスのバンドに参加したいと言ったが、アレクシスはブライアンを傷つけないようにその申し出を断った。

ブライアンはストーンズで有名人になっていたし、演奏できるほどに自分を取り戻していない、と感じたからだ。

ブライアンはCCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)のものだとか、ジェイムズ・クリーヴランドのゴスペルなどをやりたい、マディ・ウォーターズやエルモア・ジェイムズのものをもう一度やりたいと語っていた。

彼はバンドに対して、本当に熱意を見せ、アレクシスはディレクターのような形で彼の助けになろうとしていた。

またブライアンはジョン・レノン、ジミ・ヘンドリックス、ジェフ・ベックに話を持ちかけ、みんな、彼とやることに真剣に興味を示していたという。

……えーと、ちょっと待ってください。

ブライアンはストーンズを抜けた前後、「電子音楽に夢中」だと言っていたというのを読んだことがあります。

「サタニック・マジェスティーズ」の制作には反対だったものの、セッションを始めてみたら、いろいろな楽器を演奏し、一番活躍していたと。

それでブライアンは電子楽器を使うサイケデリックな音楽に目覚めたのだと思っていたのですが。

これを読むと、ブライアンは終始一貫してブルースにこだわっていたのですね。

「サタニック・マジェスティーズ」の頃、一番ドラッグ漬けだったというのは、やはりブライアンにとってこのアルバムは不本意で、ドラッグでもやらなければやってられなかった、ということなのかもしれません。

ブライアンが新しいバンドの結成を夢見ていた頃、CCRの音楽がお気に入りだった、というのは「ブライアンゆかりの曲たち」にも書きました。

このブログを書いた頃、CCRのアルバムを買ってきて聞きましたが、彼らの音楽は決してサイケデリックではないですよね。

CCRは「アメリカ南部特有の泥臭いサウンドを持ち味としたサザンロックの先駆者的存在」だそうです。

つまりブライアンがやりたかったのは、デビュー前から一貫して、あくまでも重みのある、泥臭い、男らしい(この表現は差別用語でしょうか?)サウンドだったということです。

あらためて考えてみると、ブライアンが音楽を担当した映画「A Degree Of Murder」の音楽だって、なんとなくブルージーな雰囲気です。

音楽用語について詳しくない私は、あまりいい表現を思いつかなくて申し訳ないですが、いいたいのはつまり――

ブライアンは頑固なまでにこだわりを持ったミュージシャンだったんですね……

「サタニック・マジェスティーズ」で大失敗したあと、「ベガーズ・バンケット」を制作する際、ブライアンは張り切っていたそうですが、そのセッションの頃にはそれまでドラッグをやり過ぎていたツケがきて、演奏もまともに出来ないほど体調が最悪になっていたのでしょう。

その上、ドラッグで再逮捕されたりもして。

なんてタイミングが悪いブライアン……

……ふと、ここまで書いてきて思ったことがあります。

ブライアンはジミ・ヘンドリックスとは仲がよかったし、二人は似たようなところがあるし、組んだらうまくやっていけたかも、と今まで思っていましたが、彼ら2人は弱点も似ているんですよね。

キース曰く「2人とも自分に寄ってくる人たちの良し悪しを見分けられなかった」
つまり悪い人に利用されやすいということ。

友達だったら似たもの同志でもいいですが、ビジネスで組む場合、自分の弱点を補ってくれる人と組んだほうがいいように思います。

特に人の良し悪しを見極められないという弱点が一緒というのは……、ビジネスをしていく上では危険です。

じゃあ、ブライアンはどういうタイプの人と組めばうまくいったのかというと……、と考えて、思いついてしまいました。ブライアンの弱点を補ってくれるのは、ミックやキースのようなタイプの人なんじゃない?って。

ミックの商魂や計算高さ、キースの荒っぽさや率直さ、……これこそブライアンが持っていないけれど、ビジネスの上では必要となってくるものではないでしょうか。

今更ですが、なんとか割り切って、折り合ってやっていければよかったのに。
(3人とも、”だから、うまくやろうとはしてたんだよ!”って言うかもしれませんが;)

ストーンズのハイド・パーク・コンサートが一週間先に迫っていた。

ミックは自分の代わりをつとめるメンバー、ミック・テイラーの幸運を祈り、自身も元気でやっていることを示し、ストーンズとの関係も友好的だということを証明するために、ブライアンもコンサートに出席するべきだと考えていた。

しかしミックと近い関係にあった何人かは、彼がブライアンを出席させたがるのは、もっと陰険な理由からだと思っていた。

ブライアンはコンサートの一週間前から、コンサートに出席してくれないかという電話を何本も受けた。

しかしミックが直接、電話をすることはなかった。

ミックはシャーリー・アーノルド(ストーンズ・ファンクラブの会長をつとめてきた女性)に、
「もうブライアンと話をしたかい? 彼はコンサートにくるかな?」
と聞いた。
「くるんじゃないかしら」
とシャーリーは答えたあと、「なぜ、あなたが電話をしないの? あなたが招待すれば、彼も喜ぶわ」と言った。
ミックは少し考えて、
「さあ、どうかな。ぼくにはやることもたくさんあるし。ブライアンに電話はしてみるよ。だけど、ブライアンのことは君にまかせる。オーケイ? 彼は土曜日には来なくてはいけないんだ。アレクシスと彼の新しいバンドも来ることになっている。ブライアンはアレクシスのバンドを気に入るだろう」

ミックは結局、ブライアンに電話をしたのでしょうか?

ブライアンはミックに敵意を持っていたので、ミックが誘うのは逆効果だったとも思えます。

それをミックはわかっていたのではないでしょうか。

シャーリーとブライアンとの電話でのやり取りは「BLUE TURNS TO GREY」でも触れました。

ミックは何故、ブライアンにコンサートに来て欲しかったのでしょうか。

本当に、陰険な気持ちからだったのでしょうか。

そしてブライアンはこの数日後、7月2日の深夜に自宅のプールで亡くなります。

続きは後日。