「ジンバブエへの旅(ホンモノの生ムビラ演奏を聴く)」の続きです。
しかし落ち込んでいる心のゆとりすらない。
4日目、ホテルをチェックアウト。
帰国の途につかなくてはならない。
頭の中が真っ白のままであろうと、気持ちだけはしっかり持たなくては。
ラストだと思って、ホテル敷地内から写真を撮りまくる
通りの向こうに見えるのが、私が食料を買い込んだお店
ホテルの敷地内に待機していたタクシーに乗って空港まで。
行きとは正反対の無口なおじさん運転手。
話しかけられても、英語がよく理解できないし、いっか、
と思いながら、ふと見ると、メーターが動いていなかった。
空港までの料金は一定だから動いていないのだろうか?
いい方に考えながらも、もしかして?と警戒心が働く。
空港に着き、料金を聞くと、
「40ドル」
と返ってきた。
行きの空港からホテルまでのタクシー料金は28ドル弱。
「40ドル? 高い。 行きは28ドルくらいだったけど」
と言うと、
「30ドル」
と返してきた。
それでも行きより高いけど、面倒なので30ドル払ってタクシーを降りた。
さんきゅ~べり~まっちッ!
空港でチケットを受け取り、行きとは逆の空路、ハラレ(ジンバブエ)→ヨハネスブルグ(南アフリカ)へ。
ハラレではヨハネスブルグまでのチケットしかもらっていず、ヨハネスブルグでの乗り継ぎ時間は1時間くらいしかなかったので、急いでチケットを受け取るべく南アフリカ航空のカウンターへ。
eチケット控えを渡すと、カウンターの向こうでバタバタし始めた。
パソコンキーを叩きながら、電話をかけたり、
「10分くらい待ってて」
と言われたり。
うーん、これは何かトラブルかもしれない。
しばらくして、
「英語はわかるか?」
と聞かれたので、
「ちょっとだけ」
と答えると、ゆっくりと状況の説明を始めた。
「(私の分の)シートがない」
と。
「なので、あなたは今夜はここに泊まって、明日のフライトに乗ることができる」
と。
私がその後の乗り継ぎがあることを伝えると、それは分かっている様子で、最終的に日本にはいつ着くのかと聞くと、
ちょうど一日遅れになるという。
また、
「少し待ってて」
と言われ、パスポートを持った係員がどこかに走って行った。
なんなの、これ。一日遅れになるだけならまだしも、大丈夫なのだろうか。
海外からメールを使うと高額になるとわかっていたけれど、もしかしてここで私の行方がわからなくなった場合、ここで私に何が起こったのか、誰にもわからないのではないか、
と想像力をたくましくして、知り合い数人にメールを送る。
「ヨハネスブルグにて。私のシートがないそうです。空港の人が私のパスポートを持ったまま消えました。もうおしまいでしょうか」
私に何かあった場合、メールを受け取った人たちが、ここで私の身に起こったことを証言してくれるだろう。
メールを自動に受信すると高額になるので、選択受信に設定していたのですが、すぐに誰かが返事をくれたような表示が携帯画面に出た。
しかしバッテリーが減ってきている。
充電もできないし、バッテリーを切らしたくないし、これ以上、なるべく携帯操作をしたくない。
誰からの返信か、関係ないダイレクトメールなのか、確認もできない。
もしも誰かが心配して返信をくれたのだとしても、状況が変わるまで少し待ってください、心配しているかもしれないけど、すみませんッ、と思う。
しばらくして無事、パスポートは戻ってきた。
「明日の朝、またここに来て、チェックインをしてください」
と言われ、ホテルの宿泊券みたいなものをもらった。
このホテルってどこにあるんだろう?
ここはヨハネスブルグ、空港外に出るのは危険じゃない?
空港の中で夜を明かした方が……、
と思いながら、一応ホテルの場所を確認してみると、そのカウンターの横、手荷物検査を通り抜けた空港内にホテルがあった。
たぶん乗り継ぎ時間が長い乗客用のホテルなのだと思う。
チェックインをしてカードキーをもらい、部屋に入ると、
ツインの、きれいな部屋。
シャワーもついているし、大きなTVもあり、ミネラルウォーターや、インスタントコーヒーも置いてある。
「ここをタダで使っていいんだ♪」
もちろん予定のフライトで帰りたかったけれど、これはこれで滅多にできない体験。
途中でこういう休憩があってもいいよね、と思う。
そこで一晩を過ごし、また満席になったらいやなので、ホテルをチェックアウト後、言われた
時間より早めに南アフリカ航空のカウンターに向かう。
今度は無事にチケットを受け取れた。
しかし搭乗時間まで8時間くらいあった。
ヨハネスブルグ空港も広いので、お店を見ながら歩き回ったり、ベンチに腰かけて本を読んだり、書き物をしたりしながら時間を過ごす。
このへんまで来ると、ずっと気を張っていた疲れも出てきて、できれば口もききたくないような気分になってくる。
そして、ふと平常心に戻って、考えてしまった。
今回の旅、私にとってなんなんだろう。
導かれるようにアフリカまで来たけれど、いまだに自分がなぜここにいるのかわからない。
一番、強く残っている感情は、演奏の途中で眠ってしまった、という自己嫌悪。
私は自己嫌悪を感じるために、ここまで来たのだろうか。
しかし、自己嫌悪なら日本にいたって、充分感じられるのではないか。
私はすべての物事には、何か意味があると思っている。
だから今回の旅にも、何か意味があるに違いないと、それが「自己嫌悪」だけではないに違いないと、
こたえを必死に探していた。
絶対、こたえはあるはずだ。
なんだろう、なんだろう、気づかなくちゃ……。
シートがなかったために、予定外にできてしまったヨハネスブルグ空港での待ち時間。
読みかけの本を最後まで読み終えた。
その本のラストの方に出てきた台詞にハッとした。
目が釘付けになり、「これだ」と思って、涙が出てきた。
自己嫌悪に陥ってしまうダメな自分を責められるのではなく、励まされたような気持ちになった。
思えばアフリカ行きは、そもそも民族音楽に興味を持つようになったきっかけのブライアンに導かれたのかもしれなくて――
「そっか、ありがとう、ブライアン」
と涙を拭いながら思った。
このあたりの詳しいことは次回書くとして。
やっと飛行機に無事搭乗、ヨハネスブルグ→香港へ。
行きとは違って満席状態。
香港への観光客が多いのかな。
だからギリギリにチェックインしようとした私のシートがないという事態が起こったのかも。
無事に香港着。
香港空港
全日空のカウンターに行き、日本までのチケットを受け取ろうとすると、またカウンターの向こうでバタバタしだした。
要するに私が出したeチケット控えが「昨日のフライト」のものだったからなのですが。
私はヨハネスブルグで乗れなかった時点で、コンピューターでつながっていて、香港から日本へのチケットも用意されたものと思っていたのですが、そうではなかったらしく、
ヨハネスブルグからのシートがなかったことを説明し、しばらく待たされることになった。
「またチケットがなかったらどうしよう……」
と不安でしたが、
「とれましたよ」
とチケットを渡され、ホッとした。
日本までもう少し!
メールをチェックし、やはり心配して返信をくれていた方々にメールを返す。充電器を預け荷物に入れてしまったため、バッテリーは依然切れそうなまま。
「やっと香港まで来ました。バッテリーが切れそうなので、またメールします」
それまで移動中も待ち時間も、よく眠っていた私、
さすがに香港→日本(成田)はもう眠くならず、初めて飛行機の中で映画を最後まで観終えることができた。
邦画が観たかったので、ドラマも面白いよ、と聞いていた「相棒」を観た。
新作だったのだろうか? 途中、感動して涙した。
そして成田着!
やった~ッ、日本だ! 日本語通じる! 周りにいるのは日本人ばかりだ!
既に夜の時間帯だけど、一人で歩いていたって大丈夫なんだ!
日本っていいな。日本語っていいな。
成田での最後の荷物チェックがやたらに厳しく、
「初めて行ったんですか? 観光ですか? 荷物の中、見てもいいですか? 主に何が入っていますか?」
と聞かれましたが、そこも通過して、電車に乗って空港を出る。
窓の外を見ると、
「え? 雪?」
夏のアフリカから、真冬の日本へ。
大雪の中を、荷物も雪だらけにして、滑りそうになって歩きながら、
「日本っていいなって思って帰ってきたのに、一体なんの洗礼なの?」
と複雑な心境になる。