マリアンヌ・フェイスフル part5

part4の続きです。

映画の撮影のため、オーストラリアに行ったミックとマリアンヌは、シェヴロン・ホテルの13階のスイートに入った。

ミックはベッドに入ると、すぐに眠ってしまった。

マリアンヌはまだ埋葬されていないブライアンのことを思い、彼のことを考えれば考えるほど、自分がボロボロのブライアンになったような気がしてきた。

ルーム・サービスでホット・チョコレートを頼み、それを飲みながら、医者が処方してくれた睡眠薬を飲んだ。

鏡を見るとブライアンが映っていた。

ブライアンが消えると、鏡の中のマリアンヌはオフィーリアになっていた。

マリアンヌは次から次へと、睡眠薬を口に入れ、ホット・チョコレートで流し込み、150錠入っていた薬の瓶は空になった。

よろけながら窓辺に行き、下の通りを見下ろすとブライアンが手を振っていた。

窓を開けようとしたが、開けられなかったため、マリアンヌはミックが眠っているベッドに潜り込んだ。

ミックはマリアンヌが意識不明になってから数分後に目を覚ました。

マリアンヌがオーストラリアでこん睡状態に陥っている頃、イングランドではブライアンの葬儀が行われていた。

15分間の儀式の中で、司教座聖堂参事会員はマリアンヌの回復を祈るよう呼びかけ、参列者はしばし彼女に思いを馳せた。

死の淵を彷徨うマリアンヌは、ブライアンに会ったとされている。

「涙が流れるままに」(A・E・ホッチナー著)より、引用

気がつくと私は、大きな、灰色の空間のなかにいる。静かで太陽も雲もない。空っぽの空間だった。そこにブライアンがあらわれ、私を迎えてくれた。彼は、私が来たことをとても喜んでくれた。彼は、知り合いがひとりもいないこの奇妙な、怖ろしい場所をさまよっていたので、とても寂しかったといった。それから彼は「君が来てくれてうれしいよ、マリアンヌ、本当にうれしい!」と何度も言った。
ブライアンと私は地面の上を滑りはじめた。足は地に着いていない。お互いに相手の身体には触れていない。ただ氷の上をスケートをするように、長く、ゆっくりと滑っていく。ブライアンはふだんと変わらない様子で話している。「目が覚めたら、こんなところにいた。ショックだった。ここにはピルも、マリファナも、ヴァリウムも、何もない。ひどいところさ。でも僕はそのうち気がついた。自分はもう死んでいるんだって。これもショックだった。でも、いずれ死にも慣れると思う、僕には出来る、そうミックに伝えてくれ、死にも慣れるって……」
私とブライアンはずっと滑っていった。最後に地面が途切れているところに来た。ブライアンは、ここから先は君は来てはいけない、あとは自分ひとりで行かなければといった。私は彼といっしょに行きたかったけれど、母と息子のニコラスが、私に戻るように呼んでいた。それから他の人間の声がした。ミックの声だとわかった。

DVDのマリアンヌは当時を振り返る。
「睡眠薬を150錠飲んで昏睡状態が6日間続いて、無事だった。普通なら考えられないことだったわ」
(この薬の量は3回死んでしまうくらいの量らしい)

命に別状はなかったものの、脳に障害が残るかもしれないといわれた。

ミックが横に寝ていなかったら、発見されるのがもう少し遅かったら、マリアンヌは助からなかっただろうとも言われている。

マリアンヌが演じるはずだった役には、代役がたてられた。

マリアンヌはこん睡状態の中で、本当にブライアンと会話を交わしたのでしょうか。

考えてみたところでわからないことですが、もしも死の淵にいたマリアンヌがブライアンとつながりが持てて、ブライアンが語ったことが彼の本音だったとすると、ブライアンの死は絶対に自殺ではなかった、ということになります。

そして、彼を追い詰めたと言われているミックに対して、「僕は大丈夫だって伝えてくれ」と言ったのだとすれば……、胸が熱くなってしまいます。

でも亡くなる前はドラッグをやめていたはずのブライアンが、「ここにはドラッグがない」ので「ひどいところ」だといっているのには矛盾を感じます。

その後、かつてアニタの恋人であったマリオ・スキファーノの元に走ったり、またミックとよりを戻したりしていたマリアンヌでしたが、
「空虚に感じはじめた。どうしたらいいのかわからなくて、ドラッグに頼った。心の隙を埋めるため。本当の気持ちをごまかすため」

ヘロインに溺れていくマリアンヌは、ミックの元を去ろうと決意する。

「心から彼を愛していたから、ドラッグ漬けの女がそばにいてはいけないと思った」

別れの原因について、マリアンヌは次のように語っている。

「別れをドラッグのせいにするのは、簡単よ。別れたのは私自身に原因があった。愛の育み方がわからなかったの。人を信頼することができなかったからよ」

母親と1年くらい暮らしたあと、ロンドンへ。

マリアンヌには住む家もなく、空き家で他の中毒者と一緒に暮らしたりしていた。

そのうち、いい場所を見つけた。”壊れた建物の塀”ということだ。

……塀? 塀に住むって、どういう環境だったのでしょう?

しかし、なにもここまで荒んだ生活を送る必要はないのではないかと思ってしまう。

同じことを、マリアンヌ自身も感じていたようだ。

「生活があって、子供がいた。違う人生を歩む理由があったはずなのにね」

でも、当時のマリアンヌにはこんな生き方しか出来なかった、他の生き方を選ぶことなんてとても出来なかった、そういうことなのでしょう。

1970年10月30日、ジョン・ダンバーとの離婚が成立した。

数年後、典型的なヘロイン中毒だったマリアンヌは母親失格とされ、息子のニコラスはジョン・ダンバーに引き取られることになる。

「ニコラスが去った時は、明かりが消えたようだった」

「最初はマリファナから始まって、19か20歳でコカインに手を出した。23の時にはヘロイン中毒で、まともな家もない。転がり落ちたわ」

1971年5月13日、7ヶ月の交際を経て、ミックはサントロペでビアンカと結婚式を挙げる。

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今回はマリアンヌの転落を書いただけのようになってしまいました。

また後日に続きますが(中々まとめきれず、すみません)、次回は立ち直っていくマリアンヌの様子を書けると思います。