DVD「ストーンズから消えた男」part2

最初にDVDを観たときの違和感が、日が経つにつれ、「この作品はこういうものなんだ」と自然に受け入れられるようになってきたのですが、気持ちが薄れないうちに、「違和感」について書いておきます。

違和感の理由は、ずばりコレです。

「監督、これが真相じゃないってこと、本当はわかってるんでしょ?」

10年以上、研究してきた監督が気づかないわけがないと思えたのです。

でも、真相を描けない理由がなにかあった。だから、完全なドキュメンタリーには出来なかった。限りなく真相に近づけた作品にした……、違います?

アニタのキャラがキレイすぎるんじゃないかとか、モロッコ置き去りのとき、ブライアンはもっと取り乱したのではないかとか、吸入器を手放さなかったのは喘息のためではなくハイになりたかったため?とか、納得いかないところはあるのですが、このへんのところは、置いておきましょう。

ブライアンとアニタの倒錯の世界も、付き合ってた2人の問題なので、置いておきましょう。

しっくりこないのは、犯人とされているフランクのキャラクターです。

私が読んだブライアン本では、フランクをはじめとする職人たちはブライアンを食い物にしていたとあります。

ロクな仕事もしないのに、多額の請求をしていたとか、ブライアンに奢らせていたとか。

フランクは主人であるブライアンより、えらそうだったとも書かれています。

でも、ブライアンは性格の弱さゆえか、文句が言えなかったと。

元々キースのところで働いていたフランクは、キースにやったのと同じように、買い物に行くとブライアンの分と自分の分と2つずつ買うという詐欺まがいのことをやっていたとも書かれています。

映画の中では、
「フランクの愛人が、フラれた腹いせに嘘を言っている」
となっていましたが、そうでしょうか?

監督のコメントでは、職人たちは金払いの悪さに憤っていて、ブライアンの留守中に家に入り込んで盗みを働いたり、好き勝手なことをしていた、とあります。

ブライアンはトムとジャネットまでもが入り込んでいたとは気づいていなかったのでしょうが、職人たちの仕業には気づいていたはず。

何故、文句が言えなかったのでしょうか。

これはやはり、ブライアンの性格の弱さゆえなのではないでしょうか。

映画の中では、職人たちが入り込んで好き勝手やっているところは描かれていません。それを入れてしまうと、不自然になってしまうからでしょう。

なにが不自然になってしまうかというと、ブライアンが実際に食い物にされていた、ということを描くことになってしまうからです。

映画ではあくまでも、ブライアン”だけ”がわがまま放題で、職人たちを振り回しているのですから。

映画の中のフランクは、どちらかというと弱いキャラクターです。

ブライアンに振り回され、でもどこかでブライアンに憧れて、突き放されたものだから、傷ついています。

殺人に至った心理としては、トムからも、ストーンズの事務所からも恥をかかされ、お金も貰えず、ブライアンにも冷たくされ、マリファナ、ウォッカ、(その他の?)ドラッグをやったフランクが平常心を失い、思わず手をかけてしまった、ということになっています。

しかし、警察はフランクの血液検査はしなかったと語られています。

フランクがマリファナとウォッカとその他のドラッグをやっていたというのは確実ではないということです。

ジャネットの証言から、彼女の料理にマリファナが入っていたのは事実なのでしょう。

もしかして、イタズラ目的で彼女のお皿にだけ、入れた可能性はないでしょうか?

フランクがジャネットを襲おうとしたのは事実らしいので。

もしもフランクが平常心を失っていなかったとするなら、ブライアンに手をかける必要はないと思えます。

いいように利用しているのだから、ブライアンは便利な存在のはずだからです。

ブライアンに対して威張っていたなら、強い立場だったのだろうし。

それに、プールでフランクはブライアンに「ゲイ呼ばわり」され、当時の男性にはコレは屈辱的なことだったとありますが、ブライアンは「人種差別」や「同性愛者に対する差別」を嫌っていたはずです。

そのブライアンがフランクを「ゲイ呼ばわり」してからかったりしたのでしょうか。

スーパースターで女の子にモテていたブライアンをフランクが嫉妬していたというのも、この状況で殺人につながる動機としては弱いような気がします。

つまり「フランクのキャラがもっと強いものだった」とした状況ということですが。

ジャネットの証言によると、「警察の発表と事実は大きく異なる」そうなのですが、どこが大きく異なるのでしょうか。

死因に関してだけでしょうか。

また、ジャネットがプールに向かおうとしたとき、家に戻っていたフランクが尋常じゃない様子だったそうです。

フランクが手をかけたのではないとしたら、彼はなにかを見たのかもしれないと思えます。(もしくは共犯?)

ブライアンの死後、「多くが隠微され、服は燃やされ、家は丸裸に。門までなくなった」そうですが、そこまでする理由が何故あったのでしょう。
(これはファンの侵入を避けたということなのかもしれませんが)

金払いが悪いとフランク他、職人たちは憤っていたそうですが、ブライアン本人は本当にお金がなかったはずです。

ビルが著書の中で書いているように。

売れっ子だったわりには、個人で使えるお金は、世間が思っているほどなかったということです。(亡くなった後には借金が残されていた)

それでもフランクがブライアンを金づるだと思っていたとしたら、そのブライアンを殺してしまうわけはないと思えます。

そしてこれは、最初に映画館で観たときから思ったのですが、
「フランクが死の床で(殺害を)告白した」
というところです。

死人に口なしです。

どうせ告白するなら、もう少し早くに告白するべきで、これはもしかして「告白した」ということにされてしまったのではないでしょうか。

最初にも書いたとおり、10年以上ブライアンを研究してきた監督が、この違和感に気づかないわけがないと思うのです。

監督は、実は他の真相かもしれないことを知っている、でもそれは描けなかったのではないでしょうか。

メイキング映像で、ブライアンを演じたレオ・グレゴリー(彼のブライアン役はよかったですね!)が、
「この作品で個人的に目指したことがある。それは疑問を呈すること。答えを見つけようとしなくてもいい。語り合うきっかけになればいいんだ。ブライアンについてはたくさんリサーチしたし、本当に悲劇的な運命をたどったことも知ってる。だけど僕らが知る由もない真相は、もっと悲劇的だったはずだ」
と語っています。

これが全てなのだと思います。

これが真相ではないことには気づいている、真相はもっと悲劇的だったはず。

私がDVDを観て感じた違和感の理由です。「フランクが(もしくはフランクだけが)犯人じゃないでしょ?」

冒頭に書いた「日が経つにつれ、受け入れられるようになった」というのは、フランクが犯人とするなら、
・フランクは平常心ではなかった。
・その時、プールにはフランクとブライアンしかいなかった。
という条件が必要であり、この映画はその条件を満たすように描かれていたので、「この作品はこういうものなんだ」と思えるようになったということです。

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※余談
今回あらためてこの映画を観た感想などを、つらつらと。

ブライアンが妹(バーバラ)と会うことを禁止されていたのは、初めて知りました。

温かいプールがブライアンの好みだったというのは、ブライアンっぽい気がしました。
冷たいプールは身体にしんどいですものね。

快楽主義者のブライアンは基本的に、「気持ちがいいこと」が好きだったのでしょう。

ブライアンの牛乳好きは(前に書いたQ&Aでも、好きな飲み物にあげている)、彼の幼児性あるいは素直さからきているように思えます。

たぶん子供の頃に「牛乳は身体にいい」と言われて、これさえ飲んでいれば健康を保てる、なんて思っていたのではないでしょうか。

子供の頃に言われたことって、残るものですから。

ストーンズから切られた後も、ブライアンは未来に希望を持っていた、というのには賛成ー。
彼は絶望していたばかりでは、決してなかったはずだと思えます。

ブライアンはキースとアニタをムリヤリくっつけたのでしょうか。
なんか、ちょっと違うような気がします。

ジャネットはトムの愛人ではなく、「フランクの友人」だと警察には供述したそうですが、ビルの本にも「フランクの友人」と書かれています。

ビルは、ジャネット、トム、フランクあたりの人間関係までは把握していなかったのでしょう。

ミックと話し合ったとき、ブライアンはミックを溺れさせようとした、と監督は語っていますが、それはトニー・サンチェスが書いた本や、「涙が流れるままに」という本に書かれていたのと同じエピソードのことでしょうか。

本によると、ミックと話し合っていた(怒鳴りあっていた?)ブライアンが壕に飛び込んで行き、それをミックが追った、とあります。

サンチェスの本によれば、ブライアンが溺れているように見えたのでミックが助けに行ったら、浅いところでブライアンは溺れたふりをしていただけだったと。

つまり、ブライアンはミックを試したんですね。自分を助けてくれるかどうか。

その証拠に、その一件以来、ブライアンは機嫌がよくなったそうなので。

全く子供みたいです。

……しかし、監督がこのエピソードのことを言っているのだとしたら「ブライアンがミックを溺れさせようとした」というのは、違いますよね。

「涙が流れるままに」(A・E・ホッチナー著)という本が、どれほど信憑性があるのかわかりませんが(というのも、ブライアンの死の真相があまりにショッキングに書かれていること、アニタと一緒にいるブライアンが19歳となっていること、キースがアニタの”連れ子2人”を育てていると書かれていること、しかしマリアンヌの証言には真実味があること、などから)、この本によると、アニタはこんな発言をしています。

「ブライアン以外は、ストーンズはまったく、郊外に住んでいるお固い人たちという感じだった。ミックのガールフレンドのクリシー・シュリンプトンは、秘書タイプの九時から五時まで女。ミス・お行儀。木曜日になると決まって美容院に行って髪をセットするつまらないタイプだった。キースのガールフレンドもものすごく当たり前で、平凡で、新しいことなんかやりそうにないタイプだった。チャーリー・ワッツはさえない女房を抱えていたし、ビル・ワイマンときたら、知ってるでしょ、毒にも薬にもならない、エレベーターでかかっている音楽みたいな性格の女が彼を背後であやつっていたのよ」

うわー、これが本当にアニタが語った言葉だとしたら、何様でしょうか!
絶対、近付きたくないタイプです!

また写真家のマンコヴィッツの証言として、

「ブライアンと一緒にドラッグ漬けになっていたアニタのことを、私は好きになれなかった。アニタはずるくて、意地悪で、悪魔的だった。あの当時、他人を困った目にあわせるために意地悪をする排他的なグループがあった。アニタはそういうグループの中心的存在だった。そのグループは、他人の飲み物にLSDをそっとたらし入れていた。ただ「何が起こるのか」を見るためだけのためにそんなことをしていた」

とあります。

ブライアンと仲がよかった写真家ベンツ・レイがブライアンのところに遊びに行ったとき、飲み物にドラッグを入れられ、ベンツ・レイはひどい状態になり、その一件のせいで、ブライアンとの仲が終わったそうですが、これを読んだ時、
「もしかしてアニタの仕業だったのでは?」
なんて思ってしまっていたのですが、本当にアニタの仕業だったのかもしれません。

ただし一緒にいて黙認していたのだったら、ブライアンも同罪だと思いますが。

でも、アニタのお陰でブライアンは映画音楽を担当できたので、ブライアンファンとしてはアニタに感謝(?)すべきなのでしょうか。

ジャネットが実際に語った言葉として、
「ストーンズの世界、とても奇妙だわ」
というのが出てきます。深い感じがしますが、どういう意味でしょう。

ブライアンが実際に語った言葉として最後に出てくる、
「幸せというものは、退屈なんだ」。

これは、この映画の中で、重要な言葉だと思いますが、もし私が会話をしていてこの言葉を言われたら、
「幸せの形はひとつじゃないよ。退屈じゃない幸せだってあるかもよ」
と言ってしまうかもしれません。

「なんにしろ、幸せというのは退屈なんだ」
「屁理屈をいうな!」
なんて、言われてしまうかもしれませんけど。笑